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属人化を超えて、次の成長へ——専門商社がpluszeroと挑む変革戦略

創業87年の専門商社・松尾産業株式会社は、塗料・インキ用原材料から自動車部品まで幅広い商材を扱い、長年にわたり信頼を積み重ねてきました。その根底にあるのは、各業界への深い理解と、現場に根ざした提案力です。

一方で、その提案力は社員の経験や勘に支えられてきた側面もあり、いかにしてこの強みを次世代へと引き継ぎ、組織の力として磨き続けるかが、重要なテーマとなっていました。

さらに「商社不要論」が語られるなど、業界を取り巻く環境が変化する中で、同社は“これまでの延長線”ではなく、“次の成長の形”を描く必要性を感じていました。そこで選んだのが、AIを活用した事業変革という選択肢です。

経営視点で伴走できるパートナーとして、同社はpluszeroとともに、新たな変革への一歩を踏み出しました。

開発前のコンサルティングフェーズで何が行われ、どのように変革のロードマップが描かれたのか。約3ヶ月間のヒアリングを経て生まれたAI活用の構想が、どのように具体的なテーマへと絞り込まれていったのか。
松尾産業株式会社 代表取締役社長 松尾尚樹氏と、株式会社pluszero 代表取締役会長 兼 CEO 小代義行氏にそのプロセスを伺いました。

「今やるべきか」トップがAI導入へ踏み出した決断の背景

松尾産業株式会社 代表取締役社長・松尾 尚樹様(以下、松尾産業・松尾)

「商社の存在価値が問われる」という話は、もうずいぶん前から言われてきました。単純なトレーディングだけではなく、お客様にとって価値ある提案ができるかどうかが、これからの分かれ道だと思っています。

これまでは、各業界を熟知したベテラン社員が、経験や人脈、知見を総動員して提案してきました。ただ、そのやり方はどうしても属人的になりやすく、次の世代へどう引き継いでいくかという点では課題もありました。

そこで考えたのが、世界中にあふれる情報と、私たちが日々の営業活動で得ている一次情報を、AIの力で組み合わせることです。人では追いきれない情報まで含めて活用できれば、これまで以上に価値提供できる。その可能性に期待して、今回の取り組みに踏み出しました。
株式会社pluszero 代表取締役会長 兼 CEO・小代 義行(以下、pluszero・小代)

数ある技術の中で、なぜAIに着目されたのでしょうか。
松尾産業・松尾

10年以上前から、いわゆる「シンギュラリティ」といった議論も含めて、AIが仕事のあり方を大きく変えていくという話は、さまざまな場面で耳にしてきました。私自身も、その流れ自体は以前から強く意識していました。

一方で、実際に経営としてどう動くべきかについては、「今なのか、それとももう少し技術が成熟してからなのか」という迷いがあったのも事実です。必要性は感じていても、「では、どこから始めるのか」という最初の一歩は、簡単には決めきれませんでした。
pluszero・小代

最初にご相談を受けた際、松尾社長のイノベーションに対する強いコミットメント意識から、私はむしろAIでの成功イメージを明確に描けました。AIのように不確実性のある技術を導入する際には、トップの明確な意思決定が欠かせません。さらに現場調整に時間をかけていては、進化のスピードに遅れてしまう可能性があります。松尾産業様は高度な専門性と対面営業の強さを併せ持つ企業で、そこに当社の強みである「専門性の言語化と高品質なAI構築」が加われば、大きな成果につながると確信しました。
松尾産業・松尾

当時の言葉に背中を押され、「やってみなければ分からない」と覚悟を決めたことをよく覚えています。不確実性があることは承知のうえで、トップとしてしっかり関与し、優先度の高い取り組みとして進める決断をしました。その瞬間に、迷いは挑戦へと変わりました。

求めたのは「開発ベンダー」ではなく「レンタルCTO」。作る前から経営視点で伴走支援

松尾産業・松尾

AI導入を検討するにあたり、複数の企業と話をしました。その中でpluszeroさんを選んだ理由は、「AIをどう使うか」という手段ではなく、「会社としてこの先どう変わっていくか」という視点で議論できた点にあります。
小代さんから「開発ベンダーではなく、”レンタルCTO”として技術進化に合わせて伴走します」と言われたことが非常に心強く、そのスタンスが、自分たちに合っていると感じ、パートナーとしてお願いすることを決めました。
pluszero・小代

「レンタルCTO」という言葉は、まさに当社の姿勢そのものです。AI導入において、最初から作りたいものが明確なケースは多くありません。特に松尾産業様のように多様な領域で事業を展開されている企業へのご支援において、私たちがまずその事業構造や専門性を深く理解する必要があります。そのため、初期段階では開発の話よりも「相互理解」を重視しました。AIで可能なこと・不可能なことを正直にお伝えし、事業の本質的価値を共有する。この共通認識があって初めて、意味のある提案ができると考えています。
松尾産業・松尾

まさに、そのスタンスが決め手になりました。AIは私たちにとって未知の領域でもあり、最初から仕様を固めて開発を進めるやり方よりも、状況を見ながら一緒に考えていける関係が必要だと感じていました。

「現時点の技術でできること」「今後の技術進化で見えてくる可能性」を整理しながら、進むべき方向を示してもらえたことは、大きな安心感につながりました。また、商社の営業支援領域でAI活用の事例が多くない中で、「今取り組むことで先行できる可能性がある」と示してもらえたことで、挑戦する意義を実感できました。

20のアイデアから3つの勝機へ。“現実”と“理想”を統合したAI戦略デザイン

松尾産業・松尾

約3ヶ月間のコンサルティングでは、「こうなったら面白い」という将来像と、「今の技術でできること」を行き来しながら話を進めていきました。小代さんからは、目指す方向性を示してもらう一方で、技術的に難しい点や現実的な制約についても率直に共有してもらえました。

夢だけを語るのでもなく、効率化の話だけに終わるのでもなく、その両方を踏まえながら、出てきた20のアイデアを一つずつ整理していけたことが、結果的に大きかったと思います。
pluszero・小代

20の案を基点に議論を重ね、最終的には取り組むべきテーマを3つに絞り込みました。選定基準としたのは「投資対効果(ROI)を定量的に判断できるか」と「技術の進化スピードに合致しているか」という2軸です。単に“AIでできそう”ではなく、経営インパクトと実現可能性が交わる領域を見極めることに注力しました。
松尾産業・松尾

最終的に選ばれたのが、「受発注管理の効率化」「活動履歴を蓄積するAI議事録」「提案支援AI」の3テーマでした。特に納得感があったのは、これらのテーマが個別に存在するのではなく、一本のロードマップとして繋がっている点です。
pluszero・小代

おっしゃる通り、持続的に競争優位を築くには、足元の成果(現実)と、中長期のゴール(理想)の双方が欠かせません。難易度の高いテーマから着手するのではなく、まず「受発注管理」や「AI議事録」で現場の負担を減らして“スモールサクセス”をつくる。そこで生まれたデータを教師データとして活用し、将来的な「提案支援AI」に繋げていく。この段階設計こそが、最短で成果を出すうえで重要だと考えました。
松尾産業・松尾

こうした道筋があったからこそ、現場とも認識を揃えながら、プロジェクトを前に進めることができました。何を目指していて、なぜ今これに取り組むのかが共有できていたことで、判断もしやすくなりました。
どうすれば自分たちらしい強みを生かせるのか。取り組みを通じて、その考え方を整理できたことが、今回のコンサルティングで得られた一番の収穫だと感じています。

専門性を”翻訳”する力。潜在課題を可視化した対話プロセス

松尾産業・松尾

20ものアイデアが出てきた背景には、pluszeroさんが事業理解にしっかり時間を割いてくれたことがあったと思います。当社のビジネスは、物流調整や品質管理、価格交渉、提案活動など、さまざまな要素が複雑に絡み合っており、外から見ると分かりにくい部分も多い。

そうした事業の中身をきちんと共有しながら、一つひとつ理解してもらえるのかという点は、正直なところ最初は不安がありました。
pluszero・小代

プロジェクト初期ではトップ営業の方々がどのような判断やプロセスで成果を上げているのか、完全には見えていない状態でした。そのため、いきなりシステム要件を固めるのではなく、まずは現場のエース社員の方々に徹底的なヒアリングを行いました。「なぜ受注につながったのか」「その場でどんな動きをしたのか」と過去の案件を細かく辿ることで、成果を出している人に共通する“勝ち筋”が浮かび上がってきます。単なる機能要望ではなく、その勝ちパターンをエンジニアが実装可能な形に落とし込む。この“翻訳”に最も時間をかけました。
松尾産業・松尾

まさにその「翻訳力」が、今回のプロジェクトを前に進める原動力でした。私たちは日々の業務のビジネスや本質を理解していても、それをシステムにどう落とし込むべきかはわかりません。
一方で、エンジニアの方々は、商談の微妙なニュアンスまでは掴みづらい。そうした両方の視点を行き来しながら、制約や可能性を整理してもらえたことで、言葉に引っ張られず、本質的な議論に集中できたと感じています。
pluszero・小代

ありがとうございます。お客様と私たち双方の認識を揃えた上で、開発は最初から完成形を目指すのではなく、まず試作品モデルに触れていただくところから始めています。実際に操作してもらい、そこからフィードバックを得て改良するサイクルを繰り返しましたが、進め方についてはどう感じられたでしょうか?
松尾産業・松尾

実際に試作品に触れてみる中で、私たち自身もこれまで意識できていなかった課題が、少しずつ見えてきました。業務の進め方や判断のプロセスが、人や案件ごとに暗黙の前提に依存していた部分があり、そこがAI活用を考えるうえで一つの論点になったと感じています。

動くものを前に議論できたことで、課題が具体的な言葉として整理され、次に何を改善すべきかを考えるスピードも上がりました。
pluszero・小代

こうしたスピード感を実現できる理由は、当社が多層的な外注構造を持たず、経営・コンサルティング・開発をすべて内製で進めている点にあります。一つのチームとして動くことで、現場で得た学びをすぐにプロダクトへ反映できる環境が整っています。

AIで人の可能性を増幅させ、自走する組織への進化

松尾産業・松尾

プロジェクトを進める中で、当社の業務が担当者一人ひとりの経験や知見に支えられていることを、改めて実感しました。同時に、それらをどのように整理し、次につなげていくかという点が、今後のテーマとして見えてきました。

属人的な強みを否定するのではなく、組織として活用できる形にしていく。その必要性への気づきが大きな学びです。
pluszero・小代

私たちが描いている未来は、松尾産業様の専門性をAIが増幅し、他社には出せない価値を創出する姿です。AIはあくまで「人の力を拡張するための装置」であり、要となるのは使いこなす側の「人」です。社員の皆さまが成長すればAIも成長し、相乗効果が生まれる。その循環をつくるために、これからも伴走し続けたいと考えています。
松尾産業・松尾

まさに、その点に大きな期待を寄せています。AIの活用が進む中で、どこを人が担い、どこを仕組みに任せるかを整理することが重要だと感じています。定型的な業務については、AIを活用することで効率化できる場面も増えていくでしょう。

一方で、人と人との関係性を前提にした調整や提案については、引き続き人が中心になると考えています。その役割分担を意識することが、これからの事業運営につながっていくと思います。
pluszero・小代

ありがとうございます。私たちが目指すのは、松尾産業様が中長期で“圧倒的な競争優位”を築くことです。今回の取り組みはまだ序章にすぎません。今後も「レンタルCTO」として技術の進化に応じた最適解を提示し続け、松尾産業様が業界の中で勝ち続ける戦略をともに描きたいと考えています。
松尾産業・松尾

pluszeroさんは、「AIを使いたいが、何から始めればよいのか分からない」という企業にとって理想的なパートナーだと思います。単に開発を進めるのではなく、課題の発見から成長戦略の策定まで寄り添ってくれる存在です。今回の取り組みを一区切りではなく新たなスタートとして、今後も長期的にご一緒できることを楽しみにしています。