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「人がやりたがらないこと」からAI化する。老舗メーカーの理念が導いた、創造性を生むためのDX

創業80年を迎える厨房機器メーカーの中西製作所は、学校給食や病院、社員食堂、大手外食チェーンまで“日本の食”を支えるプロフェッショナルです。
連続式洗浄機や加熱調理機を強みに成長してきた同社が、今回AIの力で向き合ったのは、給食センター運営に紐づく配送ルート設計とコンテナ積載計画という“属人化しやすい2つの業務”でした。
中西製作所の新しい挑戦のパートナーに選ばれたのは、要件定義から開発・運用までを一気通貫で担うpluszeroでした。現場の暗黙知を形式知に変え、アルゴリズムに落とし込む。その試行錯誤の全容と成果、そしてこれからさらにどのような調整をされるのか、株式会社中西製作所 取締役 経営・DX統括兼経営企画室長である吉川 日出行様に伺いました。

なぜAI化に挑んだのか。その背景にある企業理念と課題感

株式会社中西製作所 取締役 経営・DX統括兼経営企画室長・吉川 日出行 様(以下、中西製作所・吉川)

当社の歴史は戦後まもなく、アルマイト製のお皿の行商から始まりました。やがて「お皿を洗う機械を作ってほしい」と頼まれたことが転機となり、食洗機、ミルクかくはん機、消毒保管機など、大量調理業務に携わるの現場が”本当にほしい機械”をつくり続け、連続式の洗浄・加熱機器へと強みを磨いてきた歴史があります。

今は学校給食をはじめ、病院のセントラルキッチン、企業・大学の食堂、そして大手外食チェーンの店舗厨房でも、当社の機器が稼働しています。

また、当社で請け負う学校給食センターの案件では、厨房機器の導入だけでは終わりません。センター全体の設計から、完成した給食を各校へどう運ぶかまで“一貫してトータル”で提案します。ここに配送ルート案の作成とコンテナ積載計画という業務が含まれます。
株式会社pluszero 取締役副社長/CGO・大澤(以下、pluszero・大澤)

今回のお取り組みの前は、配送ルート案の作成とコンテナ積載計画の業務において仕組み化されていなかったかと思いますが、どのように行われていたのでしょうか?
中西製作所・吉川

おっしゃる通りです。これまで配送ルート案は営業企画部のベテラン社員がトラックの容量とコンテナ台数を元に、経験と勘でExcelに落としていました。

また、コンテナ積載に関しては、設計部が食器の種類・数量に応じて積載計画を考えてきました。これは簡単に見えて実は非常に複雑で検討が必要です。学校給食において自治体によって給食のレシピは異なり、食器は自治体ごとで数も大きさも深さも材質も微妙に異なります。状況によっては、納期ギリギリまでこれらの要件が確定しないこともあります。そのため、短期間で最適なレイアウトを導き出す必要がありました。

年に1回、新学期のクラス数や生徒数の変動に合わせて見直す業務となりますが、いずれも担当者の経験依存が大きく、属人化が進みやすい領域でした。
pluszero・大澤

頻繁に起こる業務ではないものの、いずれも重要な業務ですね。
中西製作所さんは、弊社との取り組み以外でも、既存の体制を維持するのではなく先進的なことにもチャレンジしている印象があります。
中西製作所・吉川

当社は数年前に厨房機器業界では初となるDX認定企業となり、業界でも先進的な取り組みを続けてきました。そして近年凄い速度で進化をしているAIを、社内でも取り組んだ方が良いのではないかという機運が高まってきました。

そこで、まずは会社にとって付加価値は低いが手間の大きい作業をAIに置き換え、人が創造的な業務に注力できる時間を生むという方針で取り組むことにしました。
pluszero・大澤

「人が創造的な業務に注力できる時間を生む」という考え方はとても素晴らしいですね。この考え方は会社のカルチャーとして浸透されているのでしょうか?
中西製作所・吉川

当社の理念は一言でいえば、「人がやりたがらないこと・大変なことを機械化し、みんなで幸せになる」ことです。食器洗浄の機械化はその典型ですし、今回の二つの領域も同じ考え方で、枝葉の業務はAIに任せ、設計者は“人でなければ出来ない領域、人だからこその付加価値が出る領域”に知恵を注ぐべきだと判断しました。

そのような経緯があり、今回pluszeroさんに相談させていただきました。
出会いは、別案件のソフト開発相談がきっかけです。最終的にその案件は他社へ依頼しましたが、pluszeroさんの理解の速さと本質把握力には驚かされ、「次に何かあれば必ず相談しよう」と社内で一致していたため、今回のお取り組みでご一緒できて嬉しいです。

対話と試行錯誤が導いた、複雑なルート最適化の成功

pluszero・大澤

一般的に、人が行っている業務をAIで代替するのは非常に難しいものです。なぜなら、マニュアル化されていない「暗黙のルール」や、過去の経験に基づく「なんとなくの判断」が必ず存在するからです。

今回ご依頼いただいた、2つの業務内容もまさにその典型例でした。完成物と前提情報はあっても、中間の意思決定が担当者の頭の中にあるのです。そこで私たちは何度も対話を重ね、仮説をぶつけ続けることで、裏にある制約や目的を掘り起こし、ロジック化していきました。
中西製作所・吉川

当初はもっとシンプルな作業かと考えていました。しかし、いざ現場の担当者とヒアリングを行うと 「温かい食器の上に冷たいものは置けない」「パンは2段重ね可」「カゴとコンテナに隙間が必要」など、気にしなくてはならない項目は思った以上にあり、とても複雑であることが判明したのです。しかも、最初のヒアリングではなかった重要条件が、対話を重ねるにつれて出てくるようになったのです。

また、当社の設計部は大阪と東京の2箇所にあるのですが、同じ業務を行っていたとしても、大阪と東京では考え方ややり方が微妙に違うこともありました。

その中でpluszeroさんは言ったことを忘れない・先回りして仕様に落とすということをしてくださいました。1を伝えると10で返ってくるので、手戻りが少なく済んだため、我々だけでなく現場からの評価が非常に高かったです。
pluszero・大澤

ありがとうございます。例えば配送ルートを最適化するためには、センターから複数校へ配送する際、各校への到着時間制約やセンター出発時刻の制約を満たしつつ、トラック台数を最小化するルートを算出する必要があります。そうそう、途中からドライバーの方の昼食休憩の時間も加味していると言われました。これまで現場の方が作成したルートは非常に緻密で、制約の組み合わせを極めて巧妙に扱う必要がありました。

組み合わせは数百万〜数千万通りに膨らみ、シンプルな全探索では到底終わりません。初期版は実用時間で解が出ないうえ、人のルートより質が劣る結果がアウトプットされるなど、思った通りのシステムを実現することができませんでした。
中西製作所・吉川

最初のシステムは担当者から「自分が作ったほうが速くて良い」とまで言われる出来でした。
pluszero・大澤

そこでプロジェクトを持ち帰り、アルゴリズムを根本から刷新するようにしました。どこで計算の時間がかかっているかを分解し、部分最適化の手法・探索順序の工夫・良解での早期打ち切りなどを組み合わせ、設計が難しい要件も取り込みながら、精度と速度を実用域へ押し上げました。結果、今は“人と同等かそれ以上の精度”を短時間で出せています。

それぞれのシステムが完成するまでにかかった期間は、コンテナ積載がおよそ3カ月で配送ルートは約6ヶ月でした。
中西製作所・吉川

pluszeroさんが試行錯誤してくださった結果、配送ルート最適化は社内外の評価が非常に高いです。実案件で繰り返し使われていますし、給食センターの運営を委託されている会社から「配送ルート案を作るのを手伝ってほしい」と依頼され、このシステムで作成したルートを提供することもあります。配送ルートのシステムがあることでお客様との良好な関係構築に寄与し、次の大きなビジネスチャンスを生むための貴重なコミュニケーションツールになっています。

「人がやりたがらない作業」こそAIに。価値ある仕事に集中する働き方へ

pluszero・大澤

吉川さんは、どのような会社こそAIを使用したシステムを導入した方が良いと思われますか?
中西製作所・吉川

人がやりたがらない作業に、多くの時間が割かれている会社こそ、AIの恩恵を受けられると考えています。
例えば料理が趣味の人はいても、皿洗いが趣味の人はあまりいないと思います。小学生の卒業文集を見たことがある方だとわかると思うのですが、児童の中には必ずと言ってよいほど「毎日おいしい給食を作ってくれてありがとう!」というお礼の言葉を書いてくれる子がいます。でも残念ながら「毎日お皿を洗ってくれてありがとう」と書いた子はみたことがありません。このように人がクリエイティビティを発揮すべき仕事は残し、必要なんだけど感謝されにくく日の当たりにくい作業はできるなら機械化・自動化する。社内業務でも同じです。「なぜ自分がこんな作業を…」というタスクは、AIに任せてよいと考えています。人から“さすがだね”と言われる価値ある仕事に集中する。その実現に向けて、pluszeroさんは強力なパートナーだと思います。