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Cross Talk 3<古野電気>AI画像解析による自動検出実用化への挑戦

自動運転が浸透しつつある自動車業界の後を追うように、海運の世界でも自動運航化への取り組みが世界中で始まっています。その実現に向けた無人航行の実証実験で、プラスゼロは船舶用レーダーのグローバルメーカー・古野電気株式会社と共同でAIによる画像解析の研究開発に取り組みました。

船も無人運航の時代へ。その実現に立ちはだかる難題とは

株式会社pluszero 取締役副社長・永田(以下、pluszero・永田)

古野電気さんは船舶レーダー関連機器のグローバルメーカーで、この分野では世界のトップシェアを誇る会社のひとつです。古野電気とプラスゼロは現在共同で無人航行の実証実験に取り組んでいるところですが、当社を開発パートナーに選んだきっかけを教えてください。
古野電気株式会社 システム開発課 課長・大 様(以下、古野電気・大)

いま自動車の世界では、「自動運転システム」がほぼ実用化されつつあるのはみなさんもご存知ですよね? それと同様に船の世界でも、無人かつ安全に航海できる船を作ろうという取り組みが近年活発になっています。いま取り組んでいる実証実験は2025年までに無人運航船の実用化を目指す日本財団が募集したもので、われわれも船舶用電気メーカー代表として参加することになりました。

船のレーダーというのは周辺に障害物、つまり他の船がどこにいるのか、そして衝突の危険性がないかどうかを画像で表示してくれるもので、安全上とても重要な機器なんです。それを無人化するためにはAIによる非常に高いレベルの画像解析技術が必要になります。そこで、当社機器のユーザーであり信頼関係の深い会社からご紹介いただいたのがプラスゼロさんでした。「東大出身エンジニアによる新進気鋭のAIベンチャー」という点も、本プロジェクトで当社が抱えている難題の解決にむけて、きっと大きな力になってくれると確信しました。
pluszero・永田

御社が抱えていた問題というのは、レーダーに映し出される画像の中に実際は存在しないのに映ってしまう像、すわなち「偽像」が出てきてしまうという問題でした。通常なら航海士がレーダー画像と双眼鏡による目視で認知・判断していたものをAIに置き換えるという、当社にとってもかなりチャレンジングで、かつ取り組みがいのある課題でした。
古野電気・大

そうなんです。レーダーは自ら電波を発射してその反射波を捉えることで自船周辺の船舶ほか障害物の映像で表示しています。ところが、実際に船は存在しないのに鏡のように電波を反射してレーダー画面に現れてしまう「反射体」が発生することがあるんですね。

熟練の航海士は地理・気象など「偽像」が現れやすい条件を経験や知識でわかっているので、「これは実際の船だ」「これは偽像だ」と即座に判断できるんです。そのいっぽうで経験値の浅い航海士にとって、偽像を識別するのはとても難しいようです。AIによる偽像の識別は、そんな層のユーザーからも大変ニーズの高いものでした。
pluszero・永田

今回のプロジェクトは、最初から必要なデータが揃っていて、あとはAIが学習すればどうにかなるという類ものではなく、データそのものを構築していくところからスタートしなければなりませんでした。データを作るうえで重要なポイントになるのが、AIにデータをどう学習してもらうかをしっかり考慮しておくという点です。そこを見据えて適切なデータを作る、というところにAI活用の難しさがあるんですね。今回は古野電気さんのレーダーの知見と弊社のAIの知見を最大限に組み合わせながら、ベースとなるデータ構築から一緒にやらせていただきました。

レーダー画面の「偽像」を検出!課題解決に導く技術とその工夫とは?

古野電気・大

今回は実際に大手海運会社が運航する船にレーダーを搭載していろんなシチュエーションのデータを集めたりと、データ蓄積は比較的順調に進んできました。その先のデータの再構築やAIによる学習では、プラスゼロさんから積極的にいろんな技術提案や工夫をしていただきましたね。
pluszero・永田

偽像にはいろんな種類や形があって、AIが判別しやすいものとそうでないものがあるということがわかりました。そのうえでAIに「これが偽像だよ」と適切に学習させながら、判別しにくいものについて実用化レベルで検出できないといけません。

そこで活用しているのが「セマンティックセグメンテーション」という技術です。これは簡単にいうと「画像のなかで検出したい対象のものを適切に切り出す」というもので、既に世の中でも多く用いられているものです。ここで重要なのは「偽像のなかには1枚の画像だけでは判断できないものがある」ということです。このタイプの偽像を検出するには、複数の画像を時系列で見て総合的に判断する必要があります。そのために、時系列情報も組み込んだうえでセマンティックセグメンテーションを行っているのです。
古野電気・大

おっしゃる通りで、実際に航海士の方がレーダー画面で偽像を判断するときも1枚の絵ではなく時系列の映像の動きで見ているそうです。人間がどのように偽像を判断しているのかという現場の知識やノウハウも今後はAIに入れていけば、最終的に熟練の航海士と同等、あるいはそれ以上の性能が実現できるんじゃないか、と非常に期待しています。
pluszero・永田

そうですね。AIをうまく活用するためには、課題に合わせて膨大なオプションから適切な手法を取捨選択できる知見が必要です。何がうまくいって何がうまくいかないか、それは何が原因でどんな工夫が可能なのか、そのあたりをしっかり情報共有しながら次のステップを一緒に考えていける関係性がじつはとても大切なことだと思っています。今回の古野電気さんとのプロジェクトは、それを理解しあって非常にうまく取り組めている事例だと思います。
古野電気・大

このプロジェクトでは、舶用レーダーの古野電気とAIのプラスゼロさん、思いがけない異分野のスペシャリストによる研究開発が実現しました。目標である無人航行実現というゴールに向けて、これからも素晴らしい成果を上げていきたいと思います。
対談の詳細はこちらからご覧いただけます。