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Cross Talk 5<東大・浅井研究室>プライバシー保護したデータマイニングを社会実装へ

プライバシーを保護しながらゲノム解析のデータを活用する方法を模索していた東京大学・浅井研究室。共同研究の相手を探していた中、辿り着いたのはゲノムの専門的な知識と暗号の応用技術を兼ね揃えるプラスゼロでした。

専門性と学際的な対応が可能なチームメンバーによる総合力で開発

東京大学 大学院新領域創成科学研究科 教授 (副研究科長) 浅井 潔(以下、東大・浅井)

私は東京大学でゲノム(遺伝情報全体・総体)解析を専門に研究しています。近年、個人のゲノムをデータとして蓄積し、医療やサイエンスに役立てる研究が盛んに行われています。しかし、これだけ個人のゲノムが使われてくると、プライバシーがすごく気になるようになってきました。なんとかプライバシーを保護したままデータを活用し、皆さんの健康や科学に貢献できる方法はないのか? と考えていました。

そこで暗号技術を使って、データそのものは暗号化したままで、有用な情報を引き出せる方法を模索しており、共同研究の相手を探していたのです。しかし、この研究テーマには「ゲノムの専門的な知識」と「暗号の応用技術」が必要になります。両方の知識とノウハウを持つ企業は、世の中にほとんど存在しません。そこで私の研究室の卒業生である森さんのいるプラスゼロさんに協力してもらうことにしました。

森さんは数学にも強いし、ゲノムのこともよく分かっています。同時にプラスゼロさんには、ソフトウェアの開発や応用に関する知見を持つ幅広い人材がいることも知っていました。そこで森さんに相談すれば、我々が悩んでいることを全部まとめて解決できるのではないか?と考えて声を掛けたのです。
株式会社pluszero 代表取締役・森(以下、pluszero・森)

ありがとうございます。私が浅井先生の教え子だったこともあり、先生の研究のバックグラウンドや内容が非常によく分かる立ち位置だったので、お役に立てそうだという話になりました。まず先生方が研究されている暗号理論を活用して、社会に役立ちそうなアプリケーションの開発を考えました。そのためには、学際的な要素や複数の学術分野を組み合わせて考えていく必要があります。

我々プラスゼロは、AI分野で自然言語処理の開発メンバーが一番多いのですが、今回のプロジェクトでは、できるだけ異なる分野の幅広いメンバーを集めて、1人では決して思い付かないようなアイデアを、チームとして打ちだそうという思いがありました。

携帯画面に広告を表示する際に組み込まれたプラスゼロの画期的なアイデア

東大・浅井

今回、開発していただいたのは携帯電話のチャット画面から広告を表示するアプリケーションです。我々にも「こういうのがあればいいな」というイメージは少しあったのですが、チャット内容を秘密にしたまま、ユーザーに関係する広告を出すアイデアや、使い勝手を配慮した見せ方など、我々だけでは思いつかないことまで提案をしてもらって大変助かりました。

とくに具体的にどういうアルゴリズムで、一体どんな尺度で表示すべきか、我々にはまったく見当がつきませんでした。そんな中、プラスゼロさんは、実際に社会で使われる可能性があるような評価関数で広告を表示するアイデアを提案してくれました。その結果、非常にリアリティのあるアプリケーションに仕上がりました。
pluszero・森

今回のケースでは、広告を表示する際に「その広告枠に」「どの広告主の」「どの広告を出すか」ということを、広告の表示ごとに毎回オークションで決定する「リアルタイムビディング」という仕組みを使うことになりました。

そういった中で、広告配信やリアルタイムオークションの研究メンバー、購買分析やECサイトの研究メンバーなどが大いに活躍してくれました。暗号理論を中心に、複数の異なるメンバーが議論を戦わせながら進めたことで、有効なアプリケーションの企画をできたのではないかと考えております。
東大・浅井

そうですね。仕上がりを見て驚いたのは、チャット上の会話の内容がサーバ側でまったく知られることなく、会話の内容に沿った広告が表示されるという、直感的には信じられない、魔法のようなアプリケーションを実現できたことです。
pluszero・森

会話の内容に合わせて広告を表示するだけでなく、その会話の内容に応じて、一番クリックしてくれる可能性が高いと思われる広告や、最もクリック単価の高い広告を出すことができます。
東大・浅井

そこが、我々だけではとても思いつかなかった素晴らしい知識と経験に基づく提案だったと思います。クリックする頻度が高い広告が表示されるところまでは、思い付きませんでした。そのお陰で、この業界に詳しい方が見ても「ああ、そういうことまで裏側でやっているんだね」と言ってもらえて、かなり説得力がありました。

難解なプロジェクトを成功に導くためにプラスゼロがこだわった3つのポイントとは?

pluszero・森

今回のプロジェクトにおいては3つのポイントがあると思っています。

一点目は、非常に高度な研究レベルでしたが、最初の段階で完全に内容を把握できなかったとしても、一生懸命に食らいついてキャッチアップしていこうという気概を持ったメンバーが集まったこと。

二点目は、複数の研究領域を持っているメンバーがチームにおり、学際的な研究テーマや課題に対して、有効な手だてやアイデアを多角的に打ち出して吟味できたことです。

最後の三点目は、仕様書どおりでなく、「そもそもどういうものを作るべきか」「こうしたらもっと良いものができるのでは」など、我々の知見を含めて幅広くご提案できた点も、本件でお役に立てたポイントと考えています。
東大・浅井

そうですね。研究現場では「仕様書を書いて、このとおりにやってください」ということはありえません。最初から道筋があるのではなく、時には立往生することもあります。だからこそ、我々と一緒に考えて、プラスアルファの付加価値をご提案してくれた点は、いま振り返っても非常にありがたかったですね。

また、様々な専門分野の方がいらっしゃった中、そこを森さんに上手く取りまとめていただきました。実はこれが非常に重要なプロジェクトマネジメントになります。実際に打ち合わせでも、意味が通じるように「通訳」してくれたことがすごく助かりました。

また、分からないことについても、先を見通しながら独自に調査し、さらにそれを補強して対応していただいたことも非常に心強かったですね。

「研究者にとってやらなくてよい仕事を減らすための支援を」プラスゼロの思いとは

東大・浅井

いまゲノム解析も含めて、いくつかの有用なアプリケーションの候補があり、実際に開発を進めています。今後、研究サイドとしては、大量のビッグデータに対して、秘匿計算をどのように行うかが重要な課題になると考えています。

これについては、アプリケーションよりも理論的な部分や計算の速さなどが問題になります。同時に、すでに開発したもの、あるいは今後開発していく方向性として、どんなアプリケーションが世の中で必要とされるのか、実際に社会と接点を持つプラスゼロさんから、また有用なアイデアをご提案をいただきたいと思っております。
pluszero・森

はい、ぜひ宜しくお願いします。ビッグデータの扱いという意味では、これまでも様々な案件に取り組んできたので、貢献できるところがあると考えております。

また、今後弊社として特にお手伝いしたいのは、研究者の方が、研究以外のことに忙殺されないように、つまり本来やらなくてもよい仕事を減らすことです。

たとえば、今回のようなアプリケーション開発の社会実装だけでなく、その前段階の論文の読み書きなどは、もっと効率的にやれると思います。本来、研究者の方には、新たな理論や世の中にない技術を生み出すことにフォーカスしていただくべきだと思っています。その点、弊社が引き続き側面支援出来たらと思っています。
東大・浅井

そうですね。大学では教育と研究に取り組んでいますが、多くの教員が「教育でも研究でもないこと」に忙殺されるのは非常に問題だと思っています。大学全体としても、日本のアカデミア全体としても、実は大変な問題になっているのです。そういった大学の研究の実情と課題に向き合い、取り組んでいただけること自体が大変うれしいですね。

いまコロナ禍の時代で、オンラインでも新たな実験がいろいろと始まっていますが、ぜひそういうものと一緒に、新しい手段や解決策を出して協力していきたいですね。
pluszero・森

ありがとうございます。是非とも、今後とも宜しくお願い致します。
対談の詳細はこちらからご覧いただけます。